「爺っ!!覚悟―!!」
手に持つ竹刀を振り上げ、正面に立つ竹刀を構えた爺に斬りかかる。
「ふん…甘いわっ!!」
面(頭)を狙った一撃は爺の持つ竹刀に逸らされ、空を斬る。
「ちぃ…って、痛ぇー!?」
空振った私に出来た隙に、爺の竹刀が私の頭を捉え打ち据える。
頭を襲う衝撃、そして痛みに私は行動不能に陥った。
「今日が最終日じゃったな?諦めてあの学校の試験を受けるんじゃぞ」
痛みに悶える私を無視して、そう言う爺。
「ぐっ…わかったよ!!受けるよ…真剣に試験も受ける、約束は守るさ」
悔しさを抑えられず、荒い口調で答えてしまうがそれも仕方ないだろう?この勝負で私の高校受験の学校が決まってしまったのだから。
「ちゃんとリリアン一本で受験するよ…」
話の始まりは爺との約束…爺との勝負に勝てなかったなら、ここいらでお嬢様学校と有名な私立リリアン女学園に進学せよ…なんていう、無茶苦茶な約束をしてしまった事が発端だ。
はっきり言って、私はお嬢様なんてものから程遠い人間であり縁遠い学校としてしか認識していなかったのだ…それがいきなり爺の思いつきにより、身近な物となってしまった。
私の名前は風見 夕貴、今日からリリアン女学園に通う高校一年生…あの爺との勝負に負けた日から数カ月が経過し、今日がリリアンの入学式だ。
私は早い目に家を出て、学校に向か…わず幼馴染の家に向かい歩いている。
幼馴染の家はここ等で檀家をたくさん持つ寺の娘さん、で私は階段を上り本堂ではなく家族の生活している家の玄関に向かう。
その途中、袈裟を着た坊主なおじさんに出会った。
「おはよーおじさん」
挨拶をすると、こちらに背を向け掃き掃除をしていたおじさんがこちらを振り向く。
「おぉ!!夕貴ちゃんじゃないか、おはよう!!志摩子を迎えに来てくれたのかい?」
ニカっと笑顔を向けて聞いてくるおじさん、おじさんは幼馴染のお父さんで…家の爺さんと親友な間柄の為、昔からよく面倒をみてもらった。
良いおじさんなんだけど…悪戯っ子気質で、幼馴染で賭けをしたり、今回の私がリリアンに進学した件にも一枚噛んでる…少々困ったおじさんである。
「迎えに来たってか…道案内してもらおうと思ってね…志摩子まだ居る?」
「そうかそうか、志摩子ならもうじき出て来ると思うよ…ほれ、噂をすればってな」
おじさんの言葉に玄関に目をやると、カラカラと引き戸を開け幼馴染がリリアンの制服を着て姿を現した。
階段に向かい歩きだした幼馴染は、程無く視界の中に私を見つけ目を見開く。
「え…ゆ、夕貴?!」
ウェーブの掛った長い髪に、フランス人形を思わせる端正な…それでいて穏やかで優しい顔付をした女の子、私の物心付いた頃からの幼馴染…藤堂 志摩子。
「おっす、おはよー志摩子、一緒に学校行こーぜ」
志摩子に軽く手を上げ、混乱している志摩子を軽く無視して挨拶する。実は志摩子に秘密にしていたんだよね…リリアンに進学するって…
「え?うん…じゃなくて…どうして夕貴がリリアンの制服を着ているの?」
一瞬私に流されかけたのだけど、完璧に流すのはやっぱ無理だったみたい。
「そりゃあ夕貴ちゃんがリリアンに入学したからに決まっているだろう」
私が答える前に、楽しそうにニヤニヤ笑みを浮かべるおじさんが答えてしまう。
「夕貴が…リリアンに…?」
普段の私を知る志摩子には、私=リリアン生徒が浮かばないらしい…そんな志摩子に私は苦笑が漏れる。
この口調もそうだが、色んな面から見ても私っていう人間はお嬢様ていう物とは正反対に位置してる…自分でも信じたく無いのだ、自分が今日からリリアン生だなんて。
…まあ志摩子のこんなに驚く姿が見れたから、良かったかな?
「はっはっは!!サプライズ成功だな!!」
おじさんは楽しそうに大声で笑ってる…おっさんは自重しろや。
私のいる所まで駆け寄ってきた志摩子は珍しく怒りをその顔に浮かべ、志摩子よか高い位置にある私の顔を見上げ口を開く。
「どうして教えてくれなかったの?リリアンを受けるって…」
「あー…家の爺さんとおじさんに口止めされてたんだよ…だから怒っちゃいやん」
冗談交じりに答えると、志摩子は重い溜息を吐き諦めた表情を浮かべる。
「それでも教えて欲しかった…夕貴のいじわる」
拗ねた様に呟く志摩子に、軽く手を合わせ「ごめんごめん」と謝りとりあえず学校に行こうと促す。
「そうね…でも…ちゃんと詳しく顛末を話して貰うから」
志摩子はそう言って、ガッチリと私の腕を捕まえ歩きだした…そんな私達をおじさんは生温かい目で見送っていた。
道すがら、志摩子に問い詰められ事の顛末を話す。
問い詰めって言っても、志摩子の性格柄怖い訳じゃないんだけど…低い位置から上目遣いでこちらを見詰められると、何だか白状しないといけないような気分になってくるから不思議だ。
「てー訳で、わたしは被害者なのだよ志摩子君…自分でもリリアンに通うなんて信じられないんだ」
「そう…源次郎さんと父は仕方ないわね…本人の意思を無視してしまうなんて…」
源次郎は家の爺さんの名前である。
「まあ…勢いとはいえ、約束したのは自分だから仕方ないんだけどねーというか、この口調じゃ不味いかね?」
頬をポリポリ掻き、志摩子に聞くと
「そうね、もう少し丁寧に話す様に心掛けた方がいいと思うわ…私は慣れているから何とも思わないけれど、気にする方は居ると思うし」
苦笑しながら、リリアンについて詳しく説明してくれる。
リリアンでの挨拶はごきげんようだとか、校門を抜けてから校舎までの途中にあるマリア像にお祈りするんだとか…いや…全部覚えるのは無理だから。
あぁ…あまりにも特殊過ぎて頭がクラクラする。
志摩子先生による「リリアン講座」は学校に着くまで続き、改めて私に向いていないと再確認したのだった。
[1回]
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2010/03/07
二次創作…マリア様に眼潰し(連載中)
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